お客様事例
クラウド・内製化支援のプロが、なぜAI研修を受けたのか。フォージビジョンが語る組織実装の壁
フォージビジョン株式会社は受託開発を軸にAWS活用支援や内製化支援、画像解析、通信基盤構築まで手がけるテック企業です。執行役員でありAWS技術責任者 兼 AWS事業責任者の山口正徳さんは、AI導入を進める中でツールの乱立、ベテランエンジニアの懐疑、レビュー負荷といった組織実装の壁に直面しました。なぜ、クラウド・内製化支援のプロである同社があえて外部のAI研修を受ける必要があったのか。ジェネラティブエージェンツの「AIエンジニアリングマスター研修」を通じて見えてきた現場と経営を繋ぐ重要性や、AI時代に求められる新たな事業パートナー像を伺いました。
受託開発を軸にAWS・画像解析・通信基盤まで手がける
― フォージビジョンの事業概要を教えてください。
フォージビジョン(ForgeVision, Inc.)は2006年設立のテック企業で、事業の中核はシステムインテグレーターとしての受託システム開発で、AWS活用支援や内製化・自走化支援、ソフトウェア開発、画像認識ソリューションなども手がけています。受託開発ではお客様ごとの要件に応じたスクラッチ開発に特長があります。一方でマシンラーニングに依存しない独自の画像解析ソリューションも持っており、用途に応じてカスタマイズして提供しています。通信キャリア向けの通信システムや基盤構築など、社会インフラを支える領域にも大手SIerと協力しながら携わっています。
― サービスの優位性をお聞かせください。
創業以来、受託システム開発は当社のコア・コンピタンスです。特徴は、要件が固まってから開発を請け負うのではなく、構想段階からお客様と伴走してきたことにあります。まだつくるものが明確でない段階からスモールスタートで開発を始め、改善を重ねながら形にしていく進め方を早くから実践してきました。企画やグランドデザインの策定、要件定義、設計、開発、導入支援、保守・運用まで一気通貫で支援できることも強みです。創業時から継続してお付き合いのあるお客様がほとんどで、単発の案件にとどまらず新たな課題やご要望が生じるたびにご依頼いただいています。
― どのようなお客様に、どのようなシステムを提供してきたのでしょうか。
フォージビジョンは特定業界に限定せず、幅広い業種・規模のお客様のシステム開発を手がけています。例えば、ラーメン山岡家さんのキッチンでは、麺を茹でる際に使うタイマーにAIを組み込んだ調理支援システムを開発しています。社会的インパクトの大きいものでは、公共交通機関の安全に関わるシステムにて独自の画像解析ソリューションを活用しています。さらに、商業施設や空港で稼働する清掃ロボットやレストランで使われる配膳ロボットを展開する企業向けには、3万台超のロボットを支えるバックエンドシステムの開発にも携わっています。
フォージビジョン株式会社
執行役員 / AWS技術責任者兼AWS事業責任者
山口 正徳さん
ツール乱立、ベテランの疑心、レビュー疲れ。AI活用を阻む課題
― 現在(2026年5月)、山口さんはどのような業務を担当していらっしゃいますか。
フォージビジョンでは執行役員としてシステム開発部門とAWSエンジニア部門を統括し、技術者育成や品質管理をはじめ事業運営全般を見ています。AWS技術責任者も兼ねており、AWSの内製化支援やOrca Securityを活用したセキュリティソリューションの提供にも携わっています。また、全社横断でAIの導入や活用を進めるAI CoEの立ち上げ・運営も担当しています。
― 2025年初めからAIによる業務効率化を進めていたとのこと、どのような課題がありましたか。
課題は主に3つありました。1つ目は、AIコーディングツールの標準化が難しかったことです。GitHub CopilotやCodex、Claude Codeなどさまざまなツールがありますが、お客様の開発環境や方針によって「このツールを使ってほしい」と指定されることがあります。案件ごとに前提が異なるため、社内でツールやノウハウを一律に揃えるのが難しかったですね。
2つ目は、ベテランエンジニアにAIへの懐疑的な見方が一定数あったことです。AIに対して「自分でやったほうが早い」「AIがつくったものを確認するより、自分でつくったほうが安心だ」と捉える人もいます。こうした状況で若手だけがAIを使い始めると、組織内の足並みが揃いません。AIを活用した開発のガイドラインを整備し、社内標準として浸透させる必要がありました。
3つ目は、AIの生成速度と人のレビュー速度に差があり、品質管理の負荷が高まったことです。普段はミスの少ないメンバーでも、AIが生成した不具合を含んだままテスト工程に載せてしまうことがありました。レビューを重ねるほど疲労がたまり、精度を保ちにくくなります。AIにクオリティ高くアウトプットさせるには、指示の出し方や前提条件の与え方まで含めて学ぶべきだと感じました。つまり、AIツール自体には触れていましたが、組織への定着や品質担保、メンバー間のばらつきをどう抑えるのかに課題が残っていました。
― ジェネラティブエージェンツの研修にたどり着くまで、社内でどのような試行錯誤をしたのでしょうか。
AI CoEの中で独自にルール整備を進めていましたが、本来必要な粒度とスピードでは追いつけませんでした。プロジェクトによっては同じツールを使って一定のルールのもとで標準化できたケースだけでなく、そこまで整備が間に合わずにツールや使い方がバラバラのまま進んだケースもありました。これではエンジニアごとにツール活用の知識や経験に差が生まれてしまいます。
そこで、社内でナレッジ共有の場を設け、エンジニアが順番に知見や経験を発表する取り組みも進めました。発表内容はYouTubeのような短尺動画に編集して社内ポータルで公開していました。ただ、教える側の負荷が大きい上に通常業務もあるため、継続が難しい。発表内容の質やレベルもまちまちで、受け手によって有用性に差が出ていました。社内だけで工夫を重ねても期待する水準で標準化や平準化を進めるのは難しいと実感しました。
現場だけではない。経営層こそ必要なAIエンジニアリング
― ジェネラティブエージェンツの研修を知ったきっかけと、受講を決めた理由を教えてください。
JAWS DAYS 2026でCOOの吉田さんから研修の概要を伺ったのがきっかけです。もともと当社では各プロジェクトごとにAI活用の課題を見つけては改善する取り組みを続けていました。ただ、AI活用を全社で標準化したい一方で、全てを厳密なルールで縛るのは現実的ではありません。AIは汎用性が高いし、メンバーたちの創意工夫やアイデアまで失ってしまうと現場の強みも損なわれてしまうからです。そこで、全社で共有すべき一定のベースラインを定めようと考えました。そのベースラインを社内だけでつくるより、AI活用の先駆者から学んだほうが時間効率もよく確実だと判断して受講を決めました。
会社で研修を選ぶ場合、講師個人の知見や実績、運営会社としての信頼性も重視していました。その点、吉田さんはClaude Codeや生成AIに関する書籍の出版実績があり、講座やイベントでの登壇経験も豊富です。さらに、吉田さんがサーバーレスについて言及していらっしゃる頃から「目指すべきエンジニア像」として掲げていた方の一人でもあり、当社の課題に合った内容を提示していただけるという確信がありました。
― 研修を経て、事業や組織にはどのような変化がありましたか。
AIに何をどこまで任せるのか、逆に人が担うべきことは何か、その線引きを考えられるようになったことです。それまではAIに任せる範囲が人によってばらついていましたが、任せられるものは積極的に任せるべきだという感覚を持てるようになりました。反対に、AIに「やっておいて」と曖昧に指示しても期待する成果は返ってきません。どのような指示を出すのか、どのルールや制約を明文化して共有するのかまで設計することが不可欠だと痛感しました。
また、研修で学んだ内容を社内にも広げたいと言うエンジニアが出てきたことも顕著な変化です。全社ミーティングでも「みんなで体験できる場をつくりたい」と声を上げ、それをベテランエンジニアたちも前向きに受け止めていました。組織全体への波及という意味でもいい流れが生まれたと感じています。
― なぜ、この研修を経営者や役員に勧めたいとお考えなのでしょうか。
今回、私はエンジニアであると同時に経営メンバーとして参加し、フォージビジョンがシステムインテグレーターとして「AI ✕ 開発」をどう事業に活かしていくのかを開発チームと同じ目線で考える機会になりました。ニュースやSNSから情報を得ることと、実際に体験を通じて理解することの間には大きな差があります。自分自身がその場に入り、現場と同じ文脈で考えられるようになることに意味がありました。経営者や経営に近い立場の方ほど、受けたほうがいいですね。事業やサービスに求められることをどのようにチームへ落とし込み、エンジニアがどう具現化していくのかを現場と一緒に考えられるようになるからです。
経営層と現場のエンジニアでAIに関する共通認識や言語が揃わず、現場が導入を進めたくても経営側が正しい意思決定をできずにAI活用やDXが進まないケースは少なくありません。経営層は技術の細部まで理解する必要はありませんが、AIでできること・できないことの「勘所」は持っておくべきです。その理解があれば、現場との対話や意思決定の質が上がり、全社的なAI活用も進めやすくなると思います。
「システム開発会社」のままでは価値が下がる。AI時代の役割
― 今後、エンジニアにはどのような姿勢が求められるでしょうか。
AIを使ってシステム開発をどう回していくのかを自分で考え続ける姿勢です。エンジニアの育成やスキルアップはインプットだけでは成り立ちません。得た知識を実際に試し、アウトプットに繋げるサイクルを回していくことが大切です。AIに関する最新情報やノウハウは数多くありますが、見聞きするだけでは自分の知識や経験にはなりません。積極的に自分の仕事で使ってみて、初めて身につきます。その一歩を踏み出せるのかが重要ですね。今回の研修でも、学んだことがあるからエンジニアはアウトプットに向かいやすくなる。会社としても「AI ✕ 開発」をリードできるエンジニアを育てていきます。
― 事業的な展望として、長期的にどのようなことへ挑戦していきますか。
今後、単にシステムを開発するだけの会社の価値は下がっていくと見ています。お客様自身がAIを使ってある程度のことはできるようになるからです。その前提に立つと、私たちに求められるのはこれまで以上にビジネスパートナーとしてお客様と向き合うことだと考えています。
もともとお客様は事業や業務の知識を持ち、私たちはシステム開発の知識を持つという二人三脚で価値を提供してきました。今後はその間にAIが入ることで協業のあり方も変わっていくはずです。お客様が実現したいことをAIに落とし込み、必要なシステムをより短いサイクルで形にしていく。従来のように私たちが持ち帰って要件定義をし、設計・開発へ進むよりもタイムリーに提供できるようになるのではないでしょうか。しかし、AIを使えばお客様自身でもできることが増えるからこそ「それでもフォージビジョンと組みたい」と思っていただける関係性がますますカギになります。AI時代に問われるのは、開発力だけでなく「いかに信頼されるパートナーであり続けられるのか」でしょう。
― AIコーディングを学ぶこと自体は個人でもできますが、組織で学び、活用すると何が違うのでしょうか。
個人でもAIコーディングを学ぶこと自体はできます。ただ、組織として活用していく場合にはそれだけでは足りません。ポイントは、チームとして共通の考え方やベースラインを持てるのか。個人で学ぶと、どうAIを使うのか、どこまで任せるのか、どのように指示するのかがそれぞれの理解や経験に依存します。そのため、会社としてプロジェクトを進めると成果や品質にばらつきが出やすく「この人は進みが早い」「あの人は遅い」といった差も生じます。その反面、組織で学ぶとメンバーたちが共通の考え方を持った上でトレーニングし、体験を通じて学びを業務で活用できるようになります。そうするとAI活用を個人任せにせず、チームとしての再現性やクオリティを高めていける。個人差をならしていくことは会社として根幹をなすミッションだと考えています。
― 最後に「AIエンジニアリングマスター研修」を受講しようとしている方々にメッセージをお願いします。
今回の研修を通じて体感したのは、AIを使った開発は独学だけで進めるのではなく、チームで体系的に体験しながら理解していくという重要性です。そのほうが最終的に成果に繋がりやすいですよね。受講したらそれで終わりではなく、研修で得た知見や技術を自社にどう取り込み、どう活かしていくのかを具体的にイメージする。その視点を持って受講する方にとってこの研修は大変有効だと思います。
(取材・執筆・編集:佐野 桃木 写真提供:フォージビジョン)