お客様事例

「AIを入れたら何かできる」は幻想だった。業務ソフトメーカーがAIエージェント開発で直面した現実

インタビューの様子
ソリマチ株式会社

ソリマチ株式会社は中小企業や個人事業主、農業経営者、会計事務所向けに会計・給与・販売管理などのバックオフィス関連ソフトウェアを開発・提供するIT企業です。ストラテジー&デベロップメント本部の松坂周作さんと河合誠さんは、AIやAIエージェントを事業に組み込む過程で「技術的にできること」と「運用できること」の間で壁に直面します。なぜ、AI導入は思いどおりに進まないのか。そして、なぜジェネラティブエージェンツ(以下、GA)の講座を選び、設計思想そのものを見直す決断に至ったのか。会計・バックオフィス領域に50年以上向き合ってきた企業の試行錯誤から、AI時代に即した学びを探りました。

社名
ソリマチ株式会社
設立
1972年 10月
資本金
4,950万円
代表者
代表取締役社長 反町 秀樹
従業員数
国内205名、海外100名
事業内容
自社ブランドパッケージソフトおよびクラウドサービスの企画・開発・販売・提供
各種コンピュータシステムの受託開発
各種セミナー・研修会の企画・運営
コンサルティング業

地域と業界に根ざす「ソリマチ」の強さ

― 貴社のサービスの優位性は何でしょうか。

河合:大きく3つあります。1つ目は全国各地に拠点を構え、地域や業種ごとの業務特性に寄り添ったサービスを展開していることです。1970年代の創業以来、各地で営業やサポートのネットワークを築いてお客様の課題や実務に即した対応を重ねてきました。

2つ目は農業分野に強いことです。ソリマチは米どころの新潟で設立された背景もあり、早い段階から農業経営者の現場に入り込み、一次産業特有の制度や業務フローに対応した会計・経営管理ソフトを磨いてきました。その結果、農業ソフトの分野では長年にわたり多くの農業経営者にご利用いただいています。

3つ目は祖業が会計事務所だった所以から、税制改正や法改正が頻発する分野で迅速な対応力があること。お客様が導入後も安心してお使いいただける点が評価されています。弊社のサポートセンターはもともと、地域の雇用創出を目的として立ち上げられました。以来、現場に寄り添う顧客対応を積み重ね、経験豊富なスタッフによるきめ細かなサポート体制を実現しています。

松坂周作さん
ソリマチ株式会社ストラテジー&デベロップメント本部 松坂周作さん

― どのような顧客課題を解決しているとお考えですか。

松坂:会計や給与、販売に関するバックオフィス業務の効率化です。それぞれの税制改正や法改正に臨機応変に対応しながらお客様の現場におけるIT化やDX化を支援しています。

河合:IT化が進む大手企業やスタートアップと比べ、私たちのお客様は「人手不足だがDXに踏み切れない」と悩んでいる場合が多いですね。ソリマチでは営業や開発に長く携わってきたメンバーがお客様の業務内容や課題、解決策を理解した上で適切なサービスを提供しています。

どこでAIを使えばいいのか。事業導入の壁

― 現在(2026年1月)、お二人はどのような業務を担当していらっしゃいますか。

松坂:複数の既存プロジェクトの進行管理を担うとともに、新規事業にてAI技術を活用した企画・推進を担当しています。ソリマチは50年以上にわたって定量・定性の業務データや会計ソフトのナレッジを保有しています。AIを使って新たな価値を生み出すことが求められる今、既存データをもとに経営診断レポートを作成するなど従来のソフトウェアにとどまらないサービス展開を模索しています。

河合:私も松坂と同じ新規事業を担当しています。継続的なリリースと安定稼働を前提に設計から実装、テスト、運用までの開発プロセスを見渡しながら、AIを活用した新たな機能やサービスを「いかに運用可能なソフトウェアとして実装するか」という観点で検討・推進しています。また、ソフトウェア開発だけでなく営業や企画といった他部署を巻き込んだプロジェクトも進めており、技術とビジネスの両面を繋ぐ役割を担っています。

河合誠さん
ソリマチ株式会社ストラテジー&デベロップメント本部 河合誠さん

― AIやLLMを業務で活用する際、組織としてどのような課題がありましたか。

松坂:生成AIを事業のどこに使うべきなのかと悩みました。技術的にできることは多岐にわたるものの、その活用方法を選択しても事業として持続可能なのか、品質をどのように定義・担保するのか、またセキュリティやリスク管理の観点で問題ないのかという点は慎重に見極める必要がありました。

― それらを解決するためにどのような試行錯誤をなさったのでしょうか。

松坂:河合と相談しながら品質目標を定義し直したり、既存製品とは異なる評価軸を社内で議論したりしました。実際に簡単なものを作って動かしてみて、AIに詳しいベンダーに話を聞きながら手探りで検討を進めました。

なぜ、GAの講座だったのか

AIエージェント開発者養成講座実践コースをお知りになったきっかけをお聞かせください。

河合:ビジネススクールの仲間からGAのCEO西見さんについて教えてもらったことです。当時はちょうどChatGPTが世の中に広まり始める直前。大手ベンダー企業に勤める仲間と「アプリケーションやプロンプトをどう作るのか」「それをどこで活用できるのか」といった議論をする中でLangChainの存在を知りました。仲間から「この分野を体系的に理解できる書籍がある」と勧められたのが西見さんの次の書籍です。西見さんが研修やセミナーでAIエージェントを分かりやすく解説していらっしゃると聞き、GAにも興味を持つようになりました。

その仕事、AIエージェントがやっておきました。書影
その仕事、AIエージェントがやっておきました。 ―ChatGPTの次に来る自律型AI革命 著者:西見公宏 技術評論社 / 2023年12月発売 A5判 / 176ページ ISBN 978-4-297-13901-8(紙)/ 978-4-297-13902-5(電子)

― この講座を受講しようと踏み切った背景をお聞かせください。

松坂:実は、複数の企業に同じ構想を持ち込んで相談していました。しかし「コーディングや運用方法までは教えられない」と返ってくることがほとんどで、私たちが求めている内容とは少し違うと感じました。

河合:多くの講座では「実装方法は教えられる」「たった1日の講座で成果を出せる」と謳っていますよね。ただ、私たちはエンジニアですから時間をかければ実装はできます。知りたかったのは運用設計の考え方や、実務での回し方。GAの講座は「できること・できないこと」が明確でした。他社と比べると費用が高かったのですが(笑)、業務に活かせる内容を学ぶにはここしかないと考え、社内で押し通して承認を得ました。

講座の様子

― 講座から得た学びはありますか。

松坂:受講前は「生成AIがあれば、これまで想像もしなかったことができるようになる」と漠然と期待していました。しかし、それは業務設計や運用設計が伴わないかぎり、幻想に近いものでした。重要なのは、実務で使いこなすこと。その考え方を講座で学べたおかげでビジネスで起こり得る失敗を事前に回避できると実感しています。

河合:AIやAIエージェントは何でもできる魔法のように語られがちですが、実際に触ってみるとどこから手を付けるべきかが分からない場合も多い。何を基準に差別化するのか、評価セットをどう回すのか。講座ではモデルを更新すれば終わりではなく、プロンプトや設計、運用をビジネスとして成立させる視点を得ました。

「AIファースト」へ。受講後の設計思想

― 講座を経て、事業に反映させたことはありますか。

松坂:当初は「AIエージェントを組み込めば活用できるはず」と考えていましたが、既存の仕組みに載せるだけでは不十分でした。そもそもの設計や前提を見直さなければならず、方向転換を迫られましたね。

河合:弊社はパッケージソフトを中心に事業を展開し、今後に向けてSaaSも思い描いていました。当初は既存のお客様に提供している価値をAIで補完したり、機能を追加したりしようという発想でした。しかし、AIは後付けの機能ではなく、提供価値そのものを設計する段階から組み込む必要があります。いわばAIファーストで、まずはAIに何を任せて人間はどこを担うのかを整理する。それを新規企画の設計段階から取り入れているところです。

講座の様子

― この講座をどのような方に勧めたいとお考えですか。

松坂:こんなに良い講座は誰にも教えたくありませんが(笑)、AIエージェントを本格的にサービスへ組み込みたい事業者の方にお勧めしたいです。受講して判明したのは、皆さんも私たちも、まだ課題自体に気づいていないんですよね。AIエージェントが注目されて「上手く活用したら面白いものが作れるよね?」と言われて戸惑っている方にとって、この講座は遠回りや失敗を避ける助けになるはずです。

河合:特に中小企業の方に、でしょうね。スタートアップはミッションや事業への想いが明確で、AIエージェントに対する心理的なハードルも低い傾向があります。一方、中小企業では新しい技術に慎重になりがちで、気づいた時には環境が大きく変わっていることも少なくありません。AIやAIエージェントに対して懐疑的なエンジニアや中間管理職、新規サービスやプロダクトを企画する立場の方こそ実装や運用の考え方を体系的に学ぶ価値があるのではないでしょうか。

AI時代に人が担う役割とは。ソリマチの判断

― AIエージェントに積極的に取り組む中、どのような可能性を感じますか。

松坂:特に定型的な業務で確実な効率化が進むでしょう。そうなればメンバー全員が定時で業務を終えられる環境も現実的になる。業務に余白が生まれた分、私はマネジメントに注力したいです。上下左右のコミュニケーションを増やし、メンバー一人ひとりと向き合いながらコーチングする。将来的な人材育成のプランニングも含め、組織全体の力を底上げするために時間を使いますね。

河合:私はAIに深く関わるほど「人間らしさ」を見つめ直すようになりました。AIと人間をいかに役割分担するのかは将来の重要なテーマですよね。私たちの業界では「十人月」という考え方があります。可能性の一つとして、そのうち7人は人間のSE、残りの3人はAIといった世界が見えてくるはず。そこで、人間が担うべき役割は何かを突き詰めたいですね。例えば、AIは一緒にお酒が飲めない。人間らしさや価値はそんなところにあるのかな、と。人を動かすための企画を考え、提案し、言葉を尽くし、どのようなアプリケーションを作るのかに専念していきます。

― 最後に、本講座を受けようとしている方へメッセージをお願いします。

松坂:敢えて厳しく申し上げると、AIエージェントでサービスを作った「その先」まで考えていないなら、一度立ち止まったほうがいいかもしれません。実装すること自体が目的にならないよう注意が必要ですね。

河合:AIエージェントという新たな分野への挑戦は自分の技術力を向上させるだけでなく、ビジネスパーソンとしての志を再考するきっかけにもなりました。ぜひ同じ体験を沢山の皆さんに味わっていただきたいです。そうすれば、世の中はもっと良くなる、もっと面白くなるはずです。

― 松坂さん、河合さん、ありがとうございました。

(取材・執筆・編集:佐野 桃木 写真提供:ソリマチ)

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