Insights
AIエージェントビルダーとは何者か。
実装から働き方の設計へ、
ソフトウェア開発者の進化
2026.03.02 | 大嶋 勇樹
第1章 AIエージェント開発の現場で何が変わったのか
ジェネラティブエージェンツ(GA)がAIエージェントの開発に2年取り組んできた中で、世の中では何が変わりましたか?
2024年の創業当初、AIエージェントはまだおもちゃのような存在でした。
コンセプトは面白いが本当に業務で使えるのか、と多くの企業が半信半疑だったと思います。その後「ワークフローを組んでみよう」「自社用にAIエージェントを作ってみよう」といった動きが広がりました。
ただ、ゼロから作るにはコストが高く、そもそもAI業界は技術変化も速い。
導入が本当に成功するのかを検証したいというニーズが強まっていきました。
この1年で変わったのは「既存のAIエージェントに自社の業務を教える」といったように、既存のAIエージェントを活用する選択肢が現実的になったこと。 AIエージェントに業務を教えたら十分に働いてくれる事例も見られるようになりました。
普段、教育研修のサービスを担当する傍らあらゆる社内業務にも携わっているため、私自身もClaude Codeのような既存のコーディングエージェントに業務を手伝ってもらっています。
AIエージェントを作ると言うとPythonで1から実装するイメージを持たれがちですが、自社業務を整理してどう働いてほしいのかを日本語で定義します。
一部プログラミングの要素はありますが、メインはコードではなく業務を言語化することです。
この変化は現場のエンジニアにも影響を与えていますか?
はい。従来はAIエージェント自体の実装から考えていましたが、現在(2026年3月)では既存エージェントで実現できるのかを試し、期待どおりに働くことが分かったらシステムへの組み込みを考えます。AIエージェント開発の進め方はこんなふうに変わってきているんです。
また、AIエージェントを作る場合、構成する要素も三階層に整理されています。
まずはOpenAIやAnthropicなどが作っているAIモデル。
2つ目に、そのモデルの上でエージェントの基本機能を担うエージェントハーネス。
3つ目に、さらにその上に載せる自社業務マニュアルや専用ツールです。
かつてはモデルの上に直接エージェントを実装していましたが、現在はこのハーネス層が独立し、既存の製品を活用できるようになりました。
その結果、企業はハーネスを自作せずに自社業務の設計に集中できるようになっています。
AIエージェント開発は、プログラムの実装から「AIエージェントとの働き方の設計」へと軸足を移しつつあるんです。
第2章 AIエージェントビルダーという新しい役割
GAが「AIエージェントビルダー」を定義した背景を教えてください。
先述のとおり、AIエージェントをゼロから実装するのではなく、既存の製品を活用して自社業務に適合させる動きが広がってきました。
そこで重要になるのが、自社業務を整理してAIが働ける形に整備・設計する役割です。
私たちはそんな担い手を AIエージェントビルダー と呼んでいます。
具体的に、AIエージェントビルダーは何を担うのでしょうか?
プログラムの実装ではなく、業務を構造化して「AIエージェントにどう働いてほしいのか」を整理することです。
最近のAIは非常に賢くて見積書作成や日程調整、タスク整理などを一定レベルでこなせます。
一方、ヒトがごく自然に行っている例外対応や優先順位の組み替え、過去の記憶や体験を活かした意思決定はまだ苦手としています。
例えば、顧客から急な要望が入った場合、ヒトは目的を踏まえて柔軟に手順を変えますが、AIは明示されていない判断を自律的に再現するのが難しい。
そのため、ヒトが自らの業務を俯瞰して暗黙知を言語化する必要があります。
AIエージェントビルダーは業務マニュアルや専用ツールを整備し、AIエージェントが迷わず動ける環境を設計するのです。
エンジニアがやらなくてもよくなったことはありますか?
従来のようにAIエージェントを1から実装する工程は減っています。最近では、最初にまず既存エージェントを試し、その上で不足部分を補うという順番に変わりました。
しかし、AIに任せるためにはヒトが「自分はどのように業務をこなしているのか」を伝えなければなりません。
ヒトの業務はステップ1〜5のように単純に分けられるものではなく、目標や状況に応じて臨機応変に順序を組み替えています。その構造を明らかにする作業が中心です。
AIエージェントビルダーはどのような方に向いていますか?
毎日こなしている業務を持ち、その手順を熟知している方です。
業務を整理して他者に伝えられる方ほどその適性があるかもしれません。また、AIとの対話できる力も欠かせません。
堅苦しく考えず「どう整理すれば動きやすいのか」とAIに問いかけながら設計する。「いつもこんなふうにやっているけれど、例外対応もあって困っているんだよね」と相談するとAIがヒントをくれることもあります。こんな姿勢がこの職能には求められると考えています。
AIに「この業務ではAを選択、別の場合はBを選択してください」といった丁寧な依頼やコミュニケーションができる方に合いそうですね。
おっしゃるとおり、それは大事な視点です。
とはいえ、私自身もそうですが、いざAIに説明しようとしても言葉に詰まるんです。
ヒトは業務を進めている時、Salesforceで顧客管理をしたり会計ソフトで見積書を作成したりしている。
自分では業務マニュアルどおりにやっているつもりでも、実はイレギュラーな業務へ当たり前のように対応している。
実際にどのように考えて仕事をしているのかをフラットに見つめ直すことが重要です。
第3章 なぜ「ワークフロー」では足りなくなったのか
ChatGPTの登場から現在までの変遷をどのようにご覧になっていますか?
2023年にGPT-4が登場した時、私は衝撃を受けました。
あまりにも賢くて「仕事がなくなるのでは」と本気で悩んだほど。
以来、AIは単なる文章生成ツールを超え始めました。当時はまだ業務適用には頼りなさもありましたが「間違いなくこれだ」と感じましたね。
特に顕著なのは、構造化出力が可能になったこと。自然言語による応答だけでなくJSONによる出力ができるようになり、プログラムが扱いやすい形式で結果を返せるようになりました。こうして「この条件ならどう判断するのか」をAIに委ねることができるようになりました。従来のプログラムは事前に分岐を定義しなければ動きませんでしたが、AIは状況に応じた判断を担える可能性が出てきたんです。
これまでは決められた条件に従うシステムだったものが条件を読み取り、解釈し、最適解を出そうとする存在に変わりました。AIエージェントの土台が整い始めた瞬間です。
しかし、当初はまだ不安定でした。エージェント的な動きは理論上可能でも、実務に耐える精度ではなかった。
そこで広がったのがエージェンティック・ワークフロー。ヒトが手順を定義してそのとおりにAIに実行させる方法です。ただ、最近からはワークフロー型ではないAIエージェントも実用性を帯びるようになりました。
ワークフローが主流だった時代の限界はどこにあったとお考えですか?
現実的な業務は、固定された手順どおりには進みません。
毎回微妙に異なり、例外が発生します。
もし完全に固定できるなら従来型の自動化で十分です。しかしワークフローは想定内の分岐には対応できますが、想定外には弱い。実際の業務は常にグラデーションを含んでいます。
例えば、同じ顧客対応でも背景や緊急度によって優先順位が変わる。ヒトは無意識にそれを判断していますが、ワークフローではその揺らぎを吸収できません。それに対応するためにAIエージェントという存在が求められ始めました。単なる手順実行ではなく、目的を理解して働こうとする存在です。
近年、従来のように文章をそれらしく生成するのではなく推論能力を強化したリーズニングモデルが登場し、AIが内部で思考プロセスを経た上で回答を生成する動きが広がっています。
AIの進化により、ヒトが細かく手順を定義しなくても目的から逆算して動く可能性が見え始めています。
ワークフローからエージェントへの移行は、手順実行から目的志向への転換。 上手くエージェントを活かすためには、AIが目的を達成するために必要な情報を自分の頭の中に暗黙知としてためておかず、AIが確認できる場所に置いておくことが大切ですね。
「ヒトが手順を考える」から「AIが考える」へ変わったことで何を望みますか?
個人的にAIに助けてほしい業務の一つに、タスク管理があります。
「今日は何をやる」「次に何をしたほうがいい」といったレベルを含め、研修だったら当日までに「これを準備する」というチェックリストをAIエージェントに用意してもらいたい。
AIには有能な秘書のように日頃の業務をサポートしてほしいんです。
第4章 これから求められるエンジニア像
AIエージェントの黎明期に、ソフトウェア開発者は何を意識してアクションすべきでしょうか?
ソフトウェア開発者のAIエージェントとの関わり方には2つあると考えています。
1つは、従来のソフトウェア開発にAIを組み込んで効率を高めること。 AIを脅威として捉えるのではなく、道具として使いこなすんです。AIができることを任せ、人間が設計や判断に集中する。
もう1つは、AIエージェントそのものを開発・設計する側に回ること。 ここでカギとなるのが第2章でも触れた「業務を整理する力」です。もともとソフトウェア開発者は現場の業務をヒアリングし、構造化し、システムに落とし込んできました。この能力はAIエージェント時代にもそのまま活きます。単にコードを書くのではなく「業務をどう設計するのか」を考える力で、AIエージェントビルダーはその延長線上にある役割。業務の目的を捉え、自分事として扱い、例外を想定し、AIが動ける形に翻訳する。これは新しい職種であると同時にソフトウェア開発者の進化形でもあります。
GAの研修事業では何を提供していますか?
私たちは2つの方向性を支援しています。
既存のソフトウェア開発にAIエージェントをどう組み込むのかを学ぶ講座と、AIエージェントそのものをどう設計・構築するのかを学ぶ講座です。
目指しているのは、AIに仕事を奪われない人材というよりも、AIを使って業務構造を変えられる人材を増やすこと。
AIエージェントの専門家である私たちの講座は日本一のクオリティだと誇っています。
最後に、私たちはAIなどの最新技術や情報に対し、どのように向き合えばいいでしょうか?
AIの変化は速く、私も全てを追い切れているわけではありません。
大事なのは「自分にとって何が重要か」を見極めることだと思います。
私はLangChainのアンバサダーとして動向を押さえつつ、OpenAIやAnthropicの公式ブログなど一次情報にも目を通しています。加えて、講演や研修で人に伝える前提で整理すると自分の理解も深まる。情報は集めるだけでなく、咀嚼して使える形にすることが大切ですね。
今後も多くの方にAIの最新技術や動向をお届けする場を作っていきます。
(取材・執筆・編集:佐野 桃木)
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