Insights
AIエージェント導入で失敗しないために、
ビジネスパーソンは何を理解すべきなのか
2026.09.07 | 江頭 貴史
弊社教育研修事業の責任者を務める江頭に、AIエージェントを正しく理解・導入するために必要な視点を聞きました。技術が生まれた背景や仕組み、実際に触れて学ぶ重要性を紹介します。
第1章 AIエージェントへの関心と導入の壁
── 江頭さんの現在のご活動を教えてください(2026年8月取材時点)。
教育研修事業の責任者を務めています。研修メニューを設計・開発し、研修を受けたお客様からフィードバックやニーズを収集して内容を改善しています。それに並行し、初学者に向けて技術系イベントで登壇したり、「はじめてのClaude Code」や「はじめてのAIエージェント開発」といったウェビナーを開催したり、私自身が学習する上でつまずいた箇所を調べてテックブログで分かりやすく解説したりしています。書籍の執筆活動でも、専門家向けではなく一般的なビジネスパーソンに向けたテーマを考えているところです。
── AIエージェントへの関心はどのように高まっていると感じますか。
現在、企業ではChatGPTやGeminiといった生成AIを実務で利用する段階まで進んでいます。しかし、AIエージェントに関しては「AIエージェントの利活用」を中期経営計画や事業計画に掲げて本格的に取り組もうとするものの、どの業務でどう使い、どんな効果を期待するのかまでは描けていないように感じます。
矢野経済研究所が実施した国内生成AI/AIエージェントの利用実態に関する法人アンケート調査(2026年)によると、生成AIを活用している企業215社のうち、AIエージェントを「導入検討中」「関心あり(情報収集中)」と回答した企業は60%を超えていますが、「利用中」は3.3%にとどまっています。AIエージェントへの関心が高まる一方、実際の利用にはまだ大きな隔たりがあります。どう取り組んでいいのかわからなかったり、不安を抱いて手を止めている企業も多いのではないでしょうか。
── 企業がAIエージェントを導入する中で、特に直面しやすい壁は何でしょうか。
会社全体の目標としてAIエージェント活用を掲げ、それを現実的な計画に落とし込むために情報収集から始めることが多いでしょう。そこで最初にぶつかる壁は、目的を達成するためにどのツールを選べばいいかがわからないこと、もう1つは、仮に正しいツールを選択できても正しく使いこなせないことです。
例えば、スマホのカメラに暗い場所でもきれいに写せるモードが搭載されていることを知らなければ、モードをONにすることもなく「このカメラは暗い場所では使えない」と評価してしまいます。同様に、AIエージェントでも機能を知らなければ本来の能力を引き出せず、「AIエージェントはうまく機能してくれない」というネガティブな体験になりやすいのです。
第2章 技術が誕生した背景を知る
── 江頭さんは『[入門]LLMアプリ開発—基本・LLMのしくみ・MCP・AIセキュリティ』という書籍にて、MCPに関するパートを担当しました。
MCPとはModel Context Protocolの略で、AIと外部のデータソースやツールを共通の手順で接続するためのオープン標準規格です。この書籍では、テーマを大きく4つに分けて「LangChainを使ったLLMアプリ開発の基本」「LLMの仕組みとモデル選定の考え方」「MCPを活用したLLMアプリ開発」「AI特有の脆弱性とAIセキュリティ対策」を紹介しています。私はその中で、LLMアプリ開発の現在地からMCPが必要とされるようになった背景までを中心に解説しています。
『[入門]LLMアプリ開発—基本・LLMのしくみ・MCP・AIセキュリティ』の詳細を見る
MCPに限らず、世の中は新しい技術が誕生すると「こんなことができる」といった新機能の内容に注目する傾向がありますが、私は「なぜ、この技術が生まれたか」という背景を知ることも大切だと考えています。
── なぜ、技術が誕生した背景も知る必要があるのでしょうか。
私たちが利用している技術の多くは偶然生まれたわけではなく、何らかの課題を解決したり目的を達成したりするために作られているからです。技術の背景を知らないままでは、いくら現場に導入しても使いこなせるまでには至らないのです。これは、目的地までの経路を案内するために作られたカーナビの背景を知らず、現在地を確認するためだけに使うようなものです。
── 背景を把握せずに使用すると、どのような失敗につながりやすいですか。
今から約10年前にもAIブームがあり、機械学習(マシンラーニング)が話題になりました。当時、AIにExcelでも処理できるような集計・分析を任せようとして失敗したという話が多かったのですが、それは本来のAIに適していないタスクを処理させようとしたからです。
機械学習は、人間が全てのルールを明確化するのが難しい課題に有効に働く技術のため、ルールの明確化に困っていなければわざわざ利用しなくてもよかったのです。集計や分析は処理の手順やルールが決まっているため、ここで機械学習を使うとザルで水をすくうような非効率な作業になります。機械学習がどんな背景で生まれてきたのかを把握せず、「機械学習はデータを放り込んだら分析してくれる」と機能だけに注目してしまったことでこんな失敗を招きました。
第3章 AIをブラックボックス化しない
── 江頭さんは、ビジネスパーソンがAIをどこまで理解するべきだとお考えですか。技術的な背景、効果、応用範囲など、知れば知るほど選択肢も増えて迷います。
AIを利活用する方には、概要を把握することが不可欠です。ただし、難解な専門用語や数式まで理解する必要はなく、他者が簡単に理解できる言葉で「こんなカラクリで動いています」と概要を説明できるレベルで十分です。
それを意識して作成したのが『本当にわかりやすいAI入門』です。AIが人間のような処理を実現する仕組みから、脳を模した技術の発展、文章生成AIの進化、今後の課題まで、数式や専門用語を極力使わず解説した入門資料です。一般的なビジネスパーソンに向けて「このようなイメージで動いています」と直感的に理解できるように構成しています。
── AIやAIエージェントに慣れ親しむには、普段からどのように情報を入手すべきですか。
技術が進化するスピードは速いため、ビジネスパーソンが全ての最新情報を細かく追い続ける必要はないと考えています。「A社のAIのほうが優れている」と言われても数ヶ月で逆転したり、「AIエージェントの使い方では、手順を明確に指定すべきだ」と言われても数ヶ月で「手順よりも、ゴールを明確に指定したほうがいい」と変わったりします。しかも、新しい情報は必ずしも網羅的に説明しているとは限らず、背景の情報が欠けていたり、ごく一部にフォーカスしていたりします。
業界の動向を追って「世の中はこんなふうに変わっていく」「現時点ではこう活用すべきだ」と情報を整理・解釈し、実用的な形に落とし込む作業は、私たち専門家の役目です。相談できる専門家を見つけることや、信頼できる情報源にあたることが重要です。
── AIをブラックボックスのまま使うと、企業ではどのような問題が起こりやすいでしょうか。
「このAIは何ができて、何が苦手なのか」を理解しないまま使うと、能力を過小評価して効率的に活用できなかったり、過大評価して判断を任せすぎたりします。特に、お客様向けの業務で利用する場合、出力を誰が確認するのか、問題が起きたときにどう対応するのかなどを決めておかないと、大きな事故や信用問題につながりかねません。
実際に海外では、生成AIが出力した架空の判例を弁護士が確認せず、裁判所に提出した事例があります。また、米国防総省付近で爆発が起きたように見える偽画像が拡散し、株式市場が一時的に動揺した例もあります。AIは誤った情報を生成することがあり、悪用される可能性もあります。だからこそ、AIの仕組みや限界を理解した上で、利用する範囲や確認の手順をあらかじめ設計することが重要です。
第4章 AIエージェントに触れて導入の進め方を学ぶ
── 「AIエージェント導入リーダー養成講座」では、ハンズオンにも注力しています。
座学だけでなく、AIエージェントを実際に動かすハンズオンも重視しています。受講する皆さんに「AIエージェントに業務を頼む」とはどういうことなのかを体験し、できることや注意すべき点を具体的に理解していただきたいからです。
受講前はChatGPTを使ったことがある程度だった方も、AIに調べものをさせたりレポートを書かせたりする中で、「簡単にExcelのレポートができた」「業務をある程度任せられそうだ」といった発見をされています。また、うまくいく体験だけでなく、どのような使い方が失敗につながるのか、その理由もお伝えしています。AIエージェントの動きを自分の目で確かめながら、実務で起こりうる問題と対策を事前に学べることも、ハンズオンの大きなメリットです。
── AIエージェント導入リーダー養成講座を通じて、どのような方に何を持ち帰ってほしいとお考えですか。
AIエージェントの導入を担当される方に、自社で実践できる進め方を持ち帰っていただきたいと考えています。従来のシステムとは異なり、AIは常に期待どおりの結果を出すとは限りません。そのため、AIが間違える可能性を前提に、どこまで任せ、どこから人間が確認するのかを考えながら、導入や運用を設計する必要があります。
講座ではAIエージェントの機能だけでなく、AI特有のプロジェクト進行や評価の考え方、運用に必要な予防・観測・制御といった観点、AIエージェント固有のリスクや必要なガバナンスについても学びます。その知識を自社に持ち帰り、効率的に導入を進めていただきたいですね。
第5章 AIエージェント導入リーダーに求められること
── 江頭さんの考える、理想のAIエージェント導入リーダー像をお聞かせください。
AIエージェントを導入するリーダーには、「生成AIやAIエージェントに対する基本的な理解」と「自社の業務に対する理解」の両方が必要です。それに基づき、業務のどこにAIエージェントを適用するのかを判断し、チームで取り組む道筋を作ります。
リーダーが全てを単独で担う必要はありません。業務の知識が不足していれば現場に詳しい方と、技術の知識が不足していればAIエージェントに詳しい方と連携し、お互いに知識を補いながら進める力があれば大丈夫です。
── 講座で習得した技術の知識を、組織やチームに理解してもらうためには「説明する力」が欠かせないと思います。加えて、適切な人材を配置するために「設計する力」も期待されますか。
はい。AIエージェントの導入では、知識を組織で共有し、誰がどの役割を担うのかを設計する力が欠かせません。特に、チームをつくり、計画を立てて推進できるマネジメント層の方に中心的な役割を担っていただきたいと考えています。
現場の方だけが実践スキルを身につけても、権限がなければ導入方針の決定や体制づくりを進められません。意思決定を担う方、権限委譲を受けて推進する方、実際に現場で活用する方が一緒に学ぶことで、共通言語と共通認識が生まれます。それにより、役割分担や判断基準を共有しながら、組織としてスムーズに導入を進められるようになると考えています。
── AIエージェントに関心を持つビジネスパーソンの皆さんに向けて、メッセージをお願いします。
AIエージェントは、一緒に働くチームの一員になっていくと思います。ただし、最初から完璧な仕事はできません。人材を育てるのと同じように、できることや任せられることを見極めながら、組織に合った働き方を整えていくことが大切です。
たとえば、新しく配属された方にルールや業務を伝え、見守りながら仕事を進めていくように、AIエージェントにも「重要なシステムには触れさせない」「出力を確認して誤りを修正する」「動作を継続的に見守る」といった仕組みが必要です。最初から大きな業務を任せるのではなく、小さな範囲から試し、できることを少しずつ増やしていく。その積み重ねが、安全で効果的な活用につながります。AIエージェントは今後さらに発展していく技術です。ぜひ、自社に合ったAIエージェントの育成にチャレンジしてみてください。
(取材・執筆・編集:佐野 桃木)
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